イェール大学集中講義 思考の穴 わかっていても間違える全人類のための思考法

イェール大学集中講義 思考の穴 わかっていても間違える全人類のための思考法 アン・ウーキョン

読書時間3時間39分(7日間)
文章の難易度★★☆(ふつう)
内容の難易度★★☆(ふつう)
間違いだとわかっているのに間違えてしまう人におすすめ度★★★

表紙の返しに「知るほどに頭の良くなる『穴をふさぐ』全方法」と書いてあるのだが、これはこの本の良さをにわかに壊している気がする。

この本の良さは「人間には誰しも思考のバイヤスというものがあって、それは賢くても避けられるものではない。でもそのバイヤスを知ることで、等身大の自分と、コミュニケーションする相手への理解を深めることができる」ということを言っていることにある。

大切なのは、頭が良くなることではなく、人間の思考のバイヤスを理解すること、そして意思決定をしやすくなることだ。
もちろん頭が良いことに越したことはないが、頭が良くなるという言葉自体、なんとなく聞き心地の良い言葉ではない。
嘘くささが出てしまうと私は思う。
そして頭が良かろうが悪かろうが、それなりに思考のバイヤスというものは発生するということもこの本を読めばわかる。

本に書かれている具体例をいくつか挙げる。
・BTSのダンスを観て、「自分でも踊れる」と思ってしまう。(当然ながら実際はそう簡単に踊れない)
・「言いやすい名前」という理由だけで、価値が高いと判断してしまう。(これは日常品のような気軽な商品ではなく、株の銘柄実験とその結果が書かれているところがポイントだと思う)
・錯覚だとわかっているのに、錯覚する。
・嫌なことも未来に先延ばしをしてしまう。(目先の報酬に負ける)
・思い込みで関係のないことのせいにしてしまう。(物事の因果関係を正しく判断できない)
など。

思考のバイヤスとは、思考のバグのようなもので、思い込みや、本質に関係ないところで思考が引っ張られるのがわかる。
そして、その思考のバイヤスに気が付いても、容易に変えられない。

自分の思考ですらこんな感じなので、他人同士がお互いを理解するには、もっと努力がいる。
きちんと向き合って話すことが大切だということ。
いくら行動をよく見ていても、気持ちを想像しても、何が正解かは本人に聞いてみないとわからないからだ。

著者は心理学の教授であり、「認知科学を使うことで、世界をよくすること」を考えてきたそうだ。
この本は全体的に前向きな印象で、読んでいて勉強にもなったし楽しかった。
学問は自分の人生をより良くするためにするものだと言うことを、改めて思い出すことができた。
この教授の授業を受けられるイェール大学の学生が羨ましい。

人間というのは、面白い生き物だ。
完璧じゃないから、何十年も生きていても飽きないし、人生を重ねて何年経っても知る楽しみがあるのだと私は思っている。
この本にも書いてあることだが、人間は考えを変えるのには時間がかかる。
それも良いと思う。
そういう意味では人生は長いのだから。