自炊者になるための26週 三浦哲哉
| 読書時間 | 3時間23分(7日間) |
| 文章の難易度 | ★★☆(ふつう) |
| 内容の難易度 | ★★☆(ふつう) |
| 自炊をしたいと思っていない人におすすめ度 | ★★★ |
穏やかで知性があり、文学的な本でありながら、内容は非常にいい意味で挑戦的である。
この本は、自称「自炊の入門書」で、「料理したくなる料理」を提示している。
どうすれば料理したくなるかを考えて楽しく自炊しつづけられることを目標にしており、「1週間で1章読み、その内容を実践すること」を26週繰り返すことを提案している。
料理本に関しては、入門書も専門書も巷に溢れている。
その多くは、おいしそうな完成品の写真があり、材料と手順が書かれている。
しかし、今回紹介するこの本には、写真は1枚もない文芸書だ。
イラストが一部採用されているだけである。
レシピの手順は簡潔に書かれているのだが、その説明文さえも文学的なのだ。
この本でフォーカスされているのは「風味の魅力」だ。
風味とは「味と一体になったにおいのこと」。
「風味について理解し、風味の感動をささやかでも自炊に取り入れてゆくこと、風味に導かれながら料理をすること、そのうえで自分なりのスタイルを作ること」をこの本では提示している。
この風味のすばらしさや、私たちがふだん何気なく行っている料理という行為がいかに心惹かれることなのかを再発見するのもこの本のテーマの一つだ。
いつでもどこでもなんでも手に入りやすくなった便利さ故、春の味や冬の味など季節特有のおいしさに疎くなってしまっていることにも、この本は気付かせてくれる。
巷の料理本とこの本が大きく違うのは、写真の有無だけではない。
「料理を心から好きになることができる本」だという点だ。
料理が上手になったり、得意になったりできる本はたくさんある。
でもこの本は、付け焼き刃の技術を習得する等ではなく、料理に対する根幹の気持ちを変えてくれる。
惰性で始めたことを、ちょっと上手くこなせるようになることと、「ああ、すごく良いなあ」と憧れを持ってできるようになることは全然違う。
初心者だけではなく、料理をするすべての人が読んで損はない。
料理をして、その出来栄えに感動すること。
それがすごく素敵なことだと思い出させてくれる。
料理をするというのは、ただ単に身体に入る食べ物を作っているというだけではない。
季節を感じるとか、その材料がどこからきたのかを想像する力とか、愛情を込めることとか、人間として必要な豊かな感覚を養えるものだ。
食事という習慣は毎日やってくるので、なんとなくただ機械的に料理することもできてしまう。
でも、それを深く考えながら行うことの面白さをこの本は教えてくれる。
料理の仕方は生き方に通じる気がする。
最後に、この本の23章「うつわとスタイル」に書いてあったことを紹介したい。
要約すると下記のようになる。
ほとんどの生活者がうつわを集める場合、やりくりの中で金銭的余裕をみつけながら新しいものを買い求め、またしばらく節約をして、ということを繰り返していることが多いだろう。
それが生活と言うものであり、美的センスだけではない、暮らしの現実や有限性、慎ましさというようなものまで反映するのではないか。
だからうつわコレクションは雑多になっていく。
それはとても良いことである。
美的統一感を最優先し、全体にそぐわないものはどんどん切り捨てたり、一つの基準で完璧に揃えるというのも一つの方針だが、それはおもしろさに欠けるのではないか。
大切な人からのもらいものであったり、旅行先で食べた美味の記憶と結びついたものだったりするコレクションは、その雑多性によって、人生の記憶をありありと映すことがある。
本を読むということもこれに似ている。
一つの分野だけを深く知るために読了数を増やすのもいいが、私は全然知らない世界を少しずつ知ることが心躍るし、それが人生を満ち足りたものにしてくれると思っている。
大切な真理と言うものは、どこかでみんなつながっているという気がして、また楽しい気持ちになるのである。
