汝、星のごとく 

汝、星のごとく 凪良 ゆう

読書時間3時間11分(5日間)
文章の難易度★★☆(ふつう)
内容の難易度★★☆(ふつう)
説明できない息苦しさを抱えている人におすすめ度★★★

哀しくて、緻密で、流れ星のような美しさがある物語だった。

瀬戸内の小さな島で出会った高校生の井上暁海と青櫂の二人は、孤独と自分に空いた穴を埋めてくれるような存在として互いに惹かれあう。
二人は夕星(ゆうづつ)を見て、自分が置かれている不自由さと同時に自由な世界に思いをはせる。
しかし、高校を卒業し島を出た櫂と、島に残る選択をした暁海は互いに心から必要な相手だとわかっているのに、しだいにすれ違っていく。
二人は弱さからくる優しさを持っていた。
そこにお互い惹かれあうが、その優しさは時に残酷で、亀裂を生むこととなってしまう。
出会いから14年間の出来事を二人それぞれの目線から紡ぐ物語だ。

思春期に同じような哀しい目をした者同士が惹かれあうことがある。
別れても、お互いの人生でふとした時、特に人生がうまくいっていないと思い出され、その思い出が杖のようにその時の人生を支えることがある。
それは執着に似た、一種の影や痛みのようにも見える。
確かに愛情は深いものの、お互いがいることで各々が成長していくことや二人が発展していくことが難しい。

孤独、目の前の閉塞的な生活への枯渇感。
狭い世界から抜け出したくても抜け出せない苦しさと、手放したいのに手放せない絆に苦しむこと。
これが、主人公二人が抱えていた「同じ哀しい目」だ。

一生懸命生きているのにうまくいかないこと。
何かを得るために何かを失うこと。
自由さと不自由さのはざま。
この本の登場人物は皆そうやって生きている。

夕星は夕方、西方に見える金星のことで、宵の明星とも呼ばれる。
同じものを指す言葉も、状況で変わり、違う呼び方も存在する。
そしてそれが「星」であるということ。
これがこの物語の本質を表していると思う。

自分にとって一番美しかった時、可能性と自由があると思えた日の出来事は永遠の思い出となるのだと思う。
この物語は人間の正しさを問うものではない。
人間の儚さや弱さ、自由と不自由、様々な形の愛情を見る物語だと思っている。