日本人は豚になる 三島由紀夫の予言

日本人は豚になる 三島由紀夫の予言 適菜 収

読書時間1時間49分(4日間)
文章の難易度★★☆(ふつう)
内容の難易度★★★(難しい)
三島由紀夫が現代に生きていたらと想像したことがある人におすすめ度★★★

この本は、三島由紀夫が予言のような言葉を遺していたことを振り返る筆者のエッセイだ。
三島由紀夫という人は、日本という国の行く末(つまり今のこと)が見えていて、当時から警告していたことがわかる。
三島由紀夫は生まれてくるのが早すぎた、というのはよく聞く言葉だ。

この本は、保守主義者と右翼という相容れないはずの顔を同時に持っていた三島由紀夫が、危惧していたこととその思想について、関連人物とともに書かれている。
日本の美徳とするところが崩れ、日本人が豚になっていく様を憂い、危機感を持っていたのだと思う。
いざという時にやれるものだ、と思っていても、腹の脂肪は1センチずつ膨らんでいく、つまりは人間というのはいつでも豚になる傾向というものがあると三島は言っている。
本当に大切なものを忘れつつあった日本人に警鐘を鳴らしていた。
彼は日本で起こっていた事象をよく理解していたのだと思う。
保守主義者の本質を持ちながら、右翼を演じるという矛盾にも彼は悩んでいたようだ。
しかしそのような中でも、最後まで希望をつなげようとしていた様もこの本を読むとわかる。

三島由紀夫はよくバカに言及していて、バカバカ言っていた印象があるが、それでも何となく、見下したり軽蔑したりするというより、愛情を持って、そうなってはいけないんだと強く叫んでいた印象がある。
筆者も書いている通り、三島は真面目だったのだろうと思う。

そして悲しいかな、「日本はなくなり、無機質で空っぽな、或る経済的大国が極東の一角に残る」と言った三島が考えたよりも状況は悪くなっている。
日本は経済大国ですらなくなった。

三島の市ヶ谷駐屯地のバルコニー演説に、自衛官たちは野次を飛ばしていた、とこの本に書かれている。
確かにほとんどが否定的な野次だったのだが、その中に「おい話を聞いてやれ」と言っている声も入っていたと、どこかのテレビ番組で私は見た記憶がある。
大衆の中にも、数は少ないが三島が言った本質を見ようとする人はいたということだ。

不謹慎だと言われてしまうかもしれないことを覚悟して書くが、楯の会の制服は素敵だったと思う。
モノクロの映像や写真が残っているもの、どれを見ても素敵なのだ。
これは西武百貨店にいた五十嵐九十九氏のデザインだそうだ。
ド・ゴールの制服を見た三島由紀夫が、それをデザインした人に頼みたいということで、五十嵐氏に依頼したらしい。
当時依頼を受けた堤清二も「いい制服だった」と言っていた。
ちなみに今の本当に若い人たちは想像つかないかもしれないが、当時の西武はセンスがずば抜けて良く、世界のお金持ちだった。

本質がわかっていて、未来を危惧する人がヤバい人視され、ぬくぬくとずる賢く生き抜く人間がのうのうと生きていくのは今も変わらないのではないか。
だって、日本人は豚になったのだもの。