同志少女よ、敵を撃て 逢坂冬馬
読書時間 | 9時間30分(9日) |
文章の難易度 | ★★☆(ふつう) |
内容の難易度 | ★★☆(ふつう) |
書き手のフレッシュさを感じつつも、知性を使う小説を読みたい人におすすめ度 | ★★★ |
2021年の発売当時から、話題も人気もあった本で、図書館で順番待ちをして一回機会を逃して、再度順番待ちして読むのが今頃になった本。
独ソ戦に出征するソ連軍の女性狙撃兵の物語。
ドイツ軍に自分の村を襲撃され、家族も他の村人も居場所もすべてをなくしたセラフィマが主人公で、彼女は村を襲撃したドイツ人狙撃兵と、家族も村も焼き放った同じソ連軍女狙撃兵のイリーナに仇を打つために自分も狙撃兵になることを決意します。
セラフィマの成長と葛藤、女狙撃兵という特殊な立場が描かれています。
すごくよく調べられていて、独ソ戦がどういうものだったのか丁寧に書かれています。
史実にも忠実に書かれているのだと思います。
歴史物が好きな人にも響くと思います。
(私が歴史にも地理にも疎いので、これがどれだけすごいのかまではわからないのが何とも惜しい)
1940年から物語が始まるので、80年以上も前の話なのに、読んでいると今起こっているような感覚になるんですね。
それは文体が現代的とか、口調に今っぽさがあるとかそういうことではなく、現在にも本質的に似たようなことが起こっているからなのではと思います。
アガサ・クリスティー賞の受賞作なので、ミステリーに分類されるのだと思いますが、一見ミステリーという感じではなく、戦争を背景にした人間の物語です。
じゃあミステリーの要素は何かと考えると、
・なぜ女性の狙撃兵の話なのか?
・「敵」とは何か?
・何のために主人公たちは戦ったのか?
読者自身が読みながらこれらの答えを見つけるところにあるのかなと思います。
戦争のむごさや理不尽さよりも、人間が今なおずっと持ち続けている哲学的な問題について考えさせられる本です。
人間は極限状態にどうなるのか、それがその人の本質なのか、そして戦争という超極限状態はそれに当たるのか。
戦争の話であって、それを通して見る人間性の話が深い気がします。
戦争が終わっても、狙撃兵であった彼女たちの人生はずっと続いていくから。
女狙撃兵たちはどこに行っても疎外感がある。同じ兵士である男性からも、戦争に行かなかった女性からも。
女狙撃兵である彼女たちはとても賢く美しく書かれている。
彼女達だけじゃないかな。全体的に美しい。戦争のグロテスクな描写もあるのですが、美しい。
作者の周りの女性がこういう人が多いのか、理想像なのか?
女の人に信頼がないとこうは書けないんじゃないかな、と想像が膨らむ。
しかし、久々小説を読む身にとっては長い。面白いから読めるのですが、戦争なので、基本明るく楽しい話ではない物語が続くので、中盤は少々辛い。
ジョジョの奇妙な冒険の1部を読んだ感じに似ています。面白い、でも辛い、でもこの先には輝く物語が続いている・・・みたいな感覚です。
終盤は怒涛の展開で、ミステリーの答えも全部回収していきます。
そこまで来たら、あとは最後まで一気に読めます。