勘違いが人を動かす 教養としての行動経済学入門 

勘違いが人を動かす 教養としての行動経済学入門 エヴァ・ファン・デン・ブルック、ティム・デン・ハイヤー

読書時間3時間9分(7日間)
文章の難易度★☆☆(わかりやすい)
内容の難易度★★☆(ふつう)
自分はなんて合理的に生きられないんだと思っている人におすすめ度★★★

私たちは、勘違いで動いている。
人を動かしていたのは、理論でも、パッションでもなく、認知バイヤスという「勘違い」だった。
今まで正しいと考えられていた人を動かすための法則が実は間違いだったということがわかった、という行動経済学の本です。

行動経済学で考えられている人間の性質をわかりやすく解説しています。
表紙に描かれているハエは、オランダにある空港の男子トイレの小便器の的として描かれた絵のハエから連想されています。
これは自然と狙いを定めやすくなり、尿はね量が約5割も減ったとそうです。

「『一見すると小さなことが人の行動に大きな影響を及ぼす効果』を、筆者は『ハウスフライ効果』と呼んでいる(ハウスフライトは、イエバエのことだ)。」
そして、この言葉は物事の予測不可能な連鎖反応を説明する「バタフライ効果」にも由来しているそうです。

行動経済学の良いところは、研究から導き出した結論が、私たちの生活にすぐ活かせるところだと思います。
「人に何かして欲しいときは、必要以上に難しくせず、簡単かつ明確で楽しいものにすること」
「人は何かを得る喜びよりも、失って後悔することに意識が引っ張られてしまう。つまりマイナスを避けたい傾向にあること」
「人の行動を促すには、すでに多くの人がしていると思わせること」
「親切な行動は、個人の問題だけでなく社会全体としてもあらゆる意味で有益」
「具体的な目標を持つことで達成しやすくなる」
などなど。
少し工夫しただけで、人の気持ちや行動が大幅に変わることがわかる本です。

逆にこの法則が、私たちの行動を誘導しようとする様々な仕掛けになって、日常に溢れているということでもあります。
論理が感情に勝る、という考えもありますが、人間の「心象」がすごく重要なことがわかります。

以前、行動経済学に関しては「予想どおりに不合理」という本も読みました。
「予想どおりに不合理」が各種の実験→検証→結果を繰り返すという学問的な構成なのに対し、この本は行動経済学の汎用的な基礎知識をつけることができる内容です。

特に7章の「報酬はどう与えるべきか」が面白かったです。
報酬と人間の行動について書かれています。
「報酬は、時に必要で、時には不必要で、時には逆効果でさえある」

こんな何でもありの結論ありますか。
改めて人間ってすごいですよね。

人は搾取されていると感じると、健康を害するようになります。
しかし、報酬が最良の動機付になるとは限らない。
報酬(お金)は人の行動を良くも悪くも変えてしまいます。

そして最終的にパフォーマンスを上げるのは、報酬よりも、適切な目標設定と、そのフィードバックということがわかったそうです。
つまり、人を動かすにはお金以外の方法をとる方が効果的だということがわかったそうなのです。

お金がないとダメなのに、そのためだけには働けない。
人間はなんて面倒くさいのでしょう。

でも、その矛盾こそが人間らしさ、生きていて楽しいところなのではないかとも私は思うのです。
そんな簡単に人間について色々なことがわかっても、長い人生面白くないですしね。

そして、全編を通して、私たちは簡単に騙されていて、一番信じられないのは自分ということもわかります。
私たち人間はすぐ騙される、でもすごく愛らしい存在ということなのではないでしょうか。