ワンルームワンダーランド ひとり暮らし100人の生活 佐藤 友理 落合 加依子
読書時間 | 1時間19分(3日間) |
文章の難易度 | ★☆☆(読みやすい) |
内容の難易度 | ★☆☆(わかりやすい) |
知らない人の知らない部屋をのぞいてみたい人におすすめ度 | ★★★ |
私がこのサイトで紹介したい本というのは、こういう本なのだ。
この本は、一人暮らしの部屋の写真と、その部屋についての簡単なエッセイを 100部屋分紹介している。
すべての写真はそこに住んでいる本人の姿はなく、ただ部屋の様子だけが写っている。
なぜこの本が作られたのか、という理由については、じんとくるものがあるので、ぜひ本を手に取って読んでみてほしい。
大人になれば誰しも自分の部屋で、物理的にも精神的にも痛みを感じたり、歯がゆくて苦しかったり、辛くて声を出して泣いたりしたことがあるだろう。
それは特別なことではないが、皆それを見せずに、もしかしたら意図的に隠して生活している。
でも、部屋はそれを隠せない。
部屋とは不思議な空間で、外から見たらわからないその人の有様というのが透けて見えるような気がする。
生活が破綻している散らかった部屋と、ごちゃごちゃしていてもどこか温かい部屋というのはまったく違う。
この本の冒頭でも「暮らしをたのしんでいるひとの部屋と、暮らしをあきらめて線引きしているひとの部屋。」という文があり、部屋の様子というのは精神状態の鏡のような気がしている。
でもそれは、良い・悪いで簡単に仕分けられるようなものではないとも思う。
誰しも生きていれば通る道の、一瞬を切り取った状態を見るようなものではないかと感じるのだ。
人生の物語が進んでいくように、部屋も変わっていく。
まったく違う場所に住んでいる、自分とはきっと交わることのない人の部屋を見るというのは、ある人間がどんな風に部屋と自分に向き合っているのかを知ることだ。
狭い世界の中で人生を行き来している私たちにとって、新しい何かを気付かせてくれるのではないかと思う。
この本を読んでも、収納術がわかるわけでも、生活のコツがわかるわけでもない。
でも、だからこそ、この本にはすごく価値がある。
私が好きだったのは、部屋に絵を飾ることに憧れがあり、本当はゴッホやモネが好きだけど、まさか買うことはできないので、ポストカードをマスキングテープで壁に貼っているという部屋のエピソードだ。
「おしゃれな部屋でなくとも、ぱっと目に入る場所に好きな絵があると気分も華やいでくる。理想を挙げればキリがないが、上手に自分の機嫌をとることのできる部屋で暮らしていけたらと思う。」と締められている。
私も、気分が華やいだり、自分をご機嫌にしたり、そういうことを諦めないで生きていきたいと思っている。
自分の機嫌を取れない時に、誰かを笑顔にすることは難しい。
もう一つ、好きだった部屋がある。
窓を塞ぐように別のマンションが隣接していて日が当たらず、一日中天気も外の明るさもわからない部屋だ。
しかし飼い始めた夜行性であるハムスターは、その習性通り昼寝て夜活動している。
そして、体をこわして長付けないほど咳が止まらない時に、「咳は朝と夜に出やすい」ことを知り、時間の気配を感じた、というエッセイだった。
目に見えなくても、生き物の習性で時間を認識している、というのは不思議だし興味深い。
しかし、100人のエッセイを読んだけれど、皆さん、文章上手すぎやしませんか。
書店員の方やライターの方がいるからかもしれないが、それにしても 1ページの短いエッセイでちゃんとその人の生活と物語がわかる。
この本で紹介されている部屋は、様々だけれど一つ共通点がある。
それは部屋にやすらぎや愛しさなどの感情が流れていること。
わくわくするキラキラした眩しい何かではないけれど、儚い光のような、希望のようなものが見えるのだ。
それってすごく素敵なことなのではないかと、私は思っている。