ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか? 松本 祐貴
| 読書時間 | 1時間56分(4日間) |
| 文章の難易度 | ★★☆(ふつう) |
| 内容の難易度 | ★★☆(ふつう) |
| 失踪の現実を知りたい人におすすめ度 | ★★★ |
自分の人生を生きていて、死にたいとか消えてしまいたいとかは考えたことがあるが、「失踪したい」と思ったことは一度もない。
失踪にはどこか希望が隠れている気がする。
今の状況から抜け出せれば、違う人生を歩めるはずだという気持ちがあり、人生に対して諦めではなく、リセット願望があるということではないかと思う。
とにかく、やり直すパワーがあって初めて成り立つ思考である。
警察庁が発表した『令和5年における行方不明者の状況』によると、行方不明者は9万144人。
日本では計算上、約1,200人に一人が毎年失踪していることになる。
年間9万人が捜索願を出されるのだ。
そう考えると、実は身近で十分起こり得ることであることがわかる。
この本は、実際に失踪した人やその家族を取材したルポタージュである。
失踪の理由、実行の手順、そして失踪後の現在の生活に至るまでが書かれている。
人生をやり直すための失踪をするとして、一番先に私が考えたのは「戸籍はどうすんだ」ということである。
自分が確かに自分であると証明するものがないと、とにかく不便でお金がかかるし、できないことが多くなる。
選択肢がものすごく狭まるのだ。
砂の器の和賀英良よろしく、他人に成り代わらないとお天道様が照らす道を歩くのは難しいのではないかとも想像する。
そのために必要なのが他人の戸籍である。
しかし、小説のように都合よく集中豪雨の土砂崩れは起きないし、マイナンバーという管理監視体制が強化された昨今、簡単に入れ替わりなどできないはずである。
だが、この本に載っている失踪は、そういう毛色とは少し違っていた。
人生と言うのはいろんな道が存在しており、人間、想像以上に生きていけることがわかる。
この本を読んで思ったのは、失踪をしたとしても、人生を立て直す、というのは、なかなか難しいということだ。
非常に刺激的な人生を送っていた場合、失踪したからと言って急に平々凡々な明るい生活に転じることはほぼないのである。
そして、良い意味でも悪い意味でも普通の生活を送る私にとっては、いくらリアリティをもって書かれていたとしても、失踪はやはり遠い世界の出来事のように感じた。
ただ唯一違うのは、認知症による失踪である。
これは誰にでも起こりうるし、自分だけではなく、家族も含めたらなおさら現実的である。
家族の誰かがいなくなることで、突然、生きる世界が変わってしまう。
社会現象と言っても過言ではない「失踪」を改めて考える機会を与える点で、読む価値のある本である。
