なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践

なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践 ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー

読書時間5時間30分(10日間)
文章の難易度★★☆(ふつう)
内容の難易度★★★(簡単ではない)
自分の所属している組織に嫌気がさしている人におすすめ度★★★

組織に心底腹が立ったことがある。
社会人になれば誰でも感じたことがある珍しくない感情だと思う。
そしてその時、組織とそれを構成している人間というのは変われないものなのだな、とも思った。

それでも私は、本当は人は変われると思っている。
でも、多くはそうではない。
むしろ年々悪くなっていく姿をよく見る。
だから当然、個人の集団で構成されている組織は変われないし、放っておけば悪くなっていくのだろう。

ということで、この本を読む事にした。
「なぜ変われないか」理由がわかれば、少しは溜飲が下がると思ったからだ。

すると、衝撃の事実が書かれていた。
「知性がないと変われない」。
が、妙に納得した。

1980年代までは知性は大人になって発達することはないと科学的に考えられていた。
しかし、それが間違いで、大人になっても知性は育つことがわかったそうだ。

知性というのは、自然と身につくことではない。
偏差値でもない。ましてや有名な学校を出ることでもない。

著者曰く大人の知性は三段階あり、環境順応型→自己主導型→自己変容型と知性のレベルが上がっていく。
知性が上がるほど変われる、と言う事になる。

この本では実際に自分と組織が変わるための手法と実例を詳しく紹介している。
改善目標、阻害行動、裏の目標、強力な固定観念という免疫マップを作り、物事の改善を目指す。

しかし、この免疫マップを正しく作れるかがまず問題になると思う。
自分の汚くずるいところにもスポットを当てなければならない。

また、具体例を読むとわかるが、頭でわかっていても行動できないことを変えるのだから、相当の努力と周りの協力が必要になる。
周囲の人たちが建設的で、変容を求めて努力する個人を理解しようとすることも個人が変われることの要因の一つだと思った。
つまり、集団の知性も高くないと個人・組織の変容が難しいことがわかる。

余談だが、MBTIが組織内で個人の性質を知るのに活用されていることが書かれている。
MBTIは科学的根拠がないとか16パーソナリティと混同され都市伝説とすら言われることもあるが、信頼性はあると言って良いのではないかと思う。

そして、少し良い変化が見られるからといって終わりにしないことも重要なことだと書かれている。
人間は変わることと同じかそれ以上に維持することが難しい。
本当のゴールは自分たちが思っているより遠い。

変われるために必要な要素が知性だとすると、相手の立場を考えて優しい気持ちで接する事、自分を誤魔化さず正直であること、途中で諦めず長いタームで挑戦を考えられること、前向きであること、何より勤勉であること。
これがこの本の言う「知性」を構成する要素だと私は思った。

知性は、その人の人間性の良さにつながっているのがわかる。
これは大人全員、耳が痛い話だろう。
もちろん私も含めて。

そして、私はこの本を読み終わった後、組織に対しては完全に諦めることにした。
自分の所属している組織が悪い部分の膿を出す勇気があると思えなかったし、人間性や知性に関してはさておき、諦めず粘り強く取り組む忍耐力は期待できない気がした。
なんとなくどうにかなる、下手したら誰かがどうにかしてくれると思っているような様子が見て取れるからだ。
これでは変容など無理だろう。
期待するからがっかりしたり、腹が立ったりするのだ。
しかしわかっていてもムカつくことはある。それは理解している。

そして本当の問題は、これが私の一個人および一企業の話ではなく、日本企業の多くの体質であろうことだ。
そして、何より私自身がそこから抜け出す勇気がない。
日本は変わるべき時に変われず、泥舟のように沈んでいくのだろうか。