ジャケ買いしたこと

凍りのくじら 辻村深月

ジャケ買いとは、「ジャケットから受ける印象を動機に(音楽を試聴することなく)レコードやCDなどを購入すること。」(大辞林「ジャケット買い」より)だ。

本来「ジャケ買い」は、音楽のレコードやCDを購入する際に用いられる言葉なのだが、最近はその範囲が広がっていて、本にも用いられている。

私は今まで「ジャケ買い」をしたことがない。
その経験がない自分が、なんとなくつまらなく感じていた。
「ばっと見た印象に惹かれたから手に取ってみる」というのは、何かを選ぶ時、至極まっとうな理由のように感じる。

強烈な第一印象で何かを所有することを決めること。
何かを買うつもりはなくて、もしくは買おうとはしているけれども何を買うかまでは決めていないときに初めて「ジャケ買いするもの」に出会える。

計画していない時に突然出会い、惹かれて買うというのは、ネット通販ではなかなか叶わないことだ。
しかし、その予期しない出会いこそ、自分の世界を広げる、生きていてすごく楽しいことの一つではないかと、私は思っている。

誰かと出会った時の印象が、それ以降なかなか変わらないのはよくあることだし、第一印象で感じる何かに関して、年を取れば取るほど勘は冴える。
ジャケ買いするなら、今なのかもしれない。

そんな時にたまたま出会ったのがこの本だ。
本の天と地、そして小口部分に絵が印刷されている。
こんな素敵な仕様の本はなかなかないと思う。

そして、その絵がくじらと月だということも、とても惹かれた。
海も夜も静かだけれど、確実にそこにあるもので、情緒的に感じる。
装丁だけでなく、文面の配置や文字の色、挿絵にすべてにこだわりが感じられるが、豪華であることとは少し違い、押し付けがましくなく、ただただ「素敵な仕様」であるのがまた良い。
さすが「愛蔵版」である。

私はこの本の内容は全く知らない。
これから読むかどうかもわからない。
積読になる可能性すらある。
でも、すごく買ってよかったと思っている。
こんな素敵な装丁の本が私の本棚にはある。
こうやって、自分の世界が広がる可能性に手を伸ばしたことが、今日はとても誇らしい。