近畿地方のある場所について

近畿地方のある場所について 背筋

読書時間3時間8分(5日間)
文章の難易度★☆☆(読みやすい)
内容の難易度★★☆(ふつう)
本を読んでぞわわ感が欲しい人におすすめ度★★★

恐怖の正体とはなんだろう。
私はホラーが苦手だ。
今まで関係なかった恐怖が頭の中に入ってじわじわと侵食されていく感じが好きになれない。
なのに、この本がとても話題になっていると聞き、読んでしまった。
結論から言う。
とても面白かった。

この本は、近畿地方にある「⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎」(文中でも伏せ字)と言う場所に関するモニュメンタリーだ。
一つ一つの短編がパズルのピースのようになっていて、少しずつ全体像が見えていき、真実を映し出していく形になっている。
それぞれの短編は誘拐事件、行方不明の編集者のこと、団地での出来事、謎のシール、カルト教団など、時系列も内容も一見バラバラで、「⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎」と言う場所に関連しているだけのそれぞれ別の話のようだが、実はあるエピソードに出ていたこの人と、違うエピソードに出てきたあの人が同一人物だった、というような繋がりが読んでいくうちにわかってくる。

そのためこの本を読む時は、出来るだけ間を空けず一気に読むことをおすすめしたい。
ホラーは、口裂け女のように追いかけてくる(と思われる)物理的な現象と、目にも見えず聞こえもしないけれど確実に存在する、超音波のようにじわじわとその人の中を恐怖で支配していく現象があると思う。
この本には両方とも書かれていて、「恐怖の伝播」が非常に巧みに扱われている。

それぞれの短編というパズルのピースの組み立て方が巧妙で、ピース同士が1枚の画になっていく過程が読者を物語に引き込んで離さない。
ちなみに物語の全容は、昔、小説も映画も流行った某輪っかのごときホラーだが、この作品の面白さはオチそのものではなく、構成力と最後への導き方だと思っている。

この作品は、元々はネットの連載だったそうだ。
すごいところは、ネットで読んでも、本で読んでも、この作品の良さが色褪せないだろうことにある。
メディアはそれぞれ特徴があり、表現の得手不得手がある。
両方読んだ人には、好みや優劣があるだろうが、私はこの作品の本質的な良さは変わらない気がしている。

この本を読み始めた時「これは一人で読みたくないな」とゾワっとした。
だからカフェや会社の休み時間、周りに人がいる時に読んでいた。
しかし不思議なことに、読み進めていくうちに恐怖は薄れていった。
ぼんやりしていた恐怖の正体が少しずつわかっていったからだと思う。
「人間は、得体の知れないものに一番恐怖を感じる」と言うことを身をもって感じた本だった。