ねじの回転 ヘンリー・ジェイムス
読書時間 | 2時間31分(4日間) |
文章の難易度 | ★★☆(ふつうだが、最近ではあまり使われない文語が出てくる) |
内容の難易度 | ★★★(難しい) |
N型(直観型)の人におすすめ度 | ★★★ |
この本は、ラジオ英会話テキストの連載「名著への招待」に載っていて、せっかくの機会なので挑戦してみることにしました。
ヘンリー・ジェイムスの心理的ホラー小説。
百物語的な内容で、ある男の人が聞いた話をまた違う人が物語としてまとめたという何でそんな回りくどい設定なのだ、イギリス特有の何かなのか?と思ってしまう設定で話が進んでいきます。
どうやら当時はこの「又聞き感」が小説にリアリティを出す、という文化だったようです。
でも、このわかりにくさがまさにこの小説の性質そのものなのです。
イギリス郊外に静かに佇む古い貴族屋敷に、両親と死別し身を寄せている眉目秀麗な兄と妹。物語の語り手である若い女「私」は二人の伯父に家庭教師として雇われた。
私は兄妹を悪の世界に引きずりこもうとする幽霊を目撃するのだが、幽霊はほかの誰にも見られることがない。本当に幽霊は存在するのか? 私こそ幽霊なのではないのか? 精密で耽美な謎が謎を呼ぶ、現代のホラー小説の先駆的な名著。
あらすじ(本の裏表紙より)
この小説ではほとんど「事実として何かが起こっている描写」がないです。
重要なことほど「○○ということが起こった」「○○と言っていた」と語られていて、その出来事自体や人物が実際にその台詞を言っているシーンというのが極めて少ない。
家庭教師である「私」が考えていること、感じたこと、見た(と思っている)ことの描写がほとんどです。
つまり、悪き存在と示唆される亡霊の存在に怯えながら、その恐怖や不自然な何かと終始戦っている話で、何が事実で何が事実でないのかがはっきりしない。
実際に何が起きたのかは読者の想像に委ねられている部分が多いです。
回収されない問題は多いけれど、それはあえて回収されないのでしょう。
人間が恐怖を感じる対象は、得体の知れないものだと言います。
一体何だかわからないから怖い、ということ。
これはまさにこの小説の本質だと思います。
本当に起きたことだとわかるのはごく一部で、それ以外は「私」が見たことや考えたりしたことから恐怖を募らせていく。
恐怖の正体より、恐怖を感じることが大きな恐怖である、ということ。
そして実際に起きていることと恐怖が見せたものの境界線が非常に曖昧なこと。
まさに文学的解釈だと思います。
小説が進めば進むほど「私」は疑心暗鬼になっていき、怯えて情緒不安定になっていくのですが、この描写がどうもネガティブな恋の症状に似ていると思ったんですよね。
幼い兄と妹の清らかに見える魅力に「私」は夢中になるのですが、その感情と関係しているのかも知れません。
あと、物語はいきなり終わる。
ラヴェルのボレロのように終わります。
「えっ、終わった?」「死んだ?」みたいに終わります。
伏線回収という概念が根付いた昨今の小説にはない潔さとも言えるでしょう。
さて題名の「ねじの回転」は、日本人である私には馴染みのない表現です。
英語では常套句で、「悪い状況をさらに悪化させる行為。特にその結果、無理やり何かをさせること」という意味だそうです。
この小説の性質をよく表している題名だと思いました。